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白馬のグルメを楽しむ

2023/09/28

旅先での経験を活かし、中華の枠を超えたシェフ

高校を卒業後レストランに就職した阿部氏。その後カナダやオーストラリアに移住し、サービススタッフから料理人に転身。フランス料理を中心に料理の経験を積む。自身で店を持ち始めてからは、フランス料理にとどまらず、中国料理や日本料理も自ら食べ歩き、顧客としての体験を通じて腕を磨き続ける。ジャンルにとらわれず、世界中で料理を振る舞った阿部氏ならではの想いに迫る。

欧米人のサービス、日本人のサービスのそれぞれの良さを活かしたい

——まずは、簡単に今までの経歴を伺えますか?

高校卒業後、地元山梨県北杜市で最大規模のレストラン「萌木の村Brew Pub Restaurant ROCK」からキャリアをスタートし、サービスの楽しさやレストランのオペレーション、ビールのことを学びました。

幼少期からテレビよりも映画などを見る機会が多かった影響で、北米や海外への憧れがあり、ワーキングホリデーを利用しカナダへ 。最初はバンクーバーの老舗のレストラン “Fish House in StanleyPark”(現在は閉店)でサービススタッフとして勤務。勤務期間の途中で料理人に転向しました。冬場は近郊のスキー場 Cypress Mountain でも勤務しました。

2010年にバンクーバーでオリンピックが開催されたこともあり、オリンピック会場で、世界的な祭典の裏方として関わるという貴重な体験もできました。語学学校には行きませんでしたが、職場の中で学ぶ英語は、現地での生活の大きな基礎となりました。多様な人種や異文化の体験、生活など、自分の価値観が広がる忘れられない時間でした。

帰国後はオリンピック期間に一緒に働いたシェフの誘いもあり、2ヶ月後には渡豪。NSW州の “THREDBO” というスノーリゾートで “Merrits MoutainHouse”、”Alpine Hotel”、夏季には Foster の “Dorsal Bputique Hotel” に勤務しました。そして帰国後、冬の期間にニセコの “The Barn” にて本格的なフランス料理を学び始めました。

——どのような経緯で「白馬飯店」の仕事に就くことになったのかを教えていただけますか?

東日本大震災の1年後に、半年間を石巻で復興ボランティアとして過ごしました。そこでの体験や思いが、現在の宮城県からの中華料理の高級食材の仕入れに繋がっています。

2012年の冬に白馬村に移住し、和田野の外国人オーナーの宿で、バーマネージャー兼副料理長として勤務しました。10代の頃に来た白馬村とは大きく変わっていて、当初まだ少なかったインバウンドを取り入れた観光地になっていました。冬の終わりからは、白馬飯店に勤めていた友人が怪我をしたことをきっかけにヘルプで勤め始めました。半年か1年ほどのつもりでしたが、35年続けていた初代オーナーの引退のタイミングでお店を引き継ぎ、2015年よりオーナーシェフとして働き始めました。そして現在に至ります。

村のみんなが誇れる、村内外の方に大切にしてもらえるお店に一緒に成長していきたい

——海外で料理人として活躍してきた阿部シェフですが、先ほど日本に戻ってお店を引き継ぐことになったと伺いました。海外のレストランでやっていたこととの違いや戸惑いはありましたか?

食材や調理器具が違うだけで料理という根本は変わりません。元々はフランス料理をずっとやっていこうと思っていましたが、中国料理は中国料理で面白い。
海外でも日本でも僕にとっては大きな違いも戸惑いもありません。

僕自身は元々サービス出身ということもあり、今でも、自分はいつかサービス側に、もしくはお店をプロデュースしていく側に立ちたいなと思っています。そんな中で、欧米人のサービス、日本人のサービスのそれぞれの良さを融合させ、お客様に素晴らしい体験を提供できたらと思っています。

もし料理を作り続けていくとしても、お客様が直接見える位置で、直接料理を渡せるようなサービスができるお店のスタイルを考えています。マネジメントだけでなく、現場での仕事も好きです。無理難題は苦しいけど、解決していくことで自分が成長することは気持ちが良いし、まだまだやってやろう!とやる気もみなぎります。

——確かに今でもよく料理を自ら運んで、その都度お料理の説明をされていますね。続いては、白馬飯店がホテルシェラリゾート白馬で再出発したコンセプトを教えてください。

白馬飯店は40年続いてきました。さらにこの先の40年をどう創っていくか。

僕に何かがあった時でも、誰かがトライしたいと思ってもらえるお店づくりをしていかなきゃいけないなと思っています。お客様だけでなく、ここで働いてみたい、ここで勉強してみたいという料理人やソムリエ、サービスマンが集まってくるような店づくりをしていきたいです。

白馬村で生まれ育った「白馬飯店」を、村のみんなが誇れて、人に勧めたくなる、白馬村を代表するお店にするために、これからも村内外の方に大切にしてもらえるお店に一緒に成長していきたいです。

料理は白馬飯店の伝統とお客様からのニーズを守っていくことももちろんですが、地域の食材、旬な食材を取り入れ、ここでしか食べられない料理、コース作りに努めています。またワインやお酒とのペアリングもすごく大切にしていて、レストランという体験が、思い出に残るような時間作りができたらなと思っています。

今回の移転を機に、今まで使えなかった食材にも積極的にアプローチして自分自身の技術の向上にもトライしていきたいです。今日も食べたけど明日も食べたいと思える軽やかさ、調理技術やオリジナルの調味料を活かして、その時に口にしている素材そのものの味を、より感じてもらえたらなと思っています。

八方口の大谷農園さんの畑で、花韮とコリアンダー収穫してる様子。

その土地、その季節が見える料理、コースを作れるように日々挑戦していきたい

——「地域の食材、旬な食材を取り入れている」ということですが、具体的にどのようなこだわりがあるのでしょうか?

単品メニューだけの提供だと、年中同じものを作り続けなくてはならず、季節に合わない食材や缶詰物を使い必要が出てくることに、ずっと自分の中で苦しさがありました。

移転し、再スタートしたのを機に、一旦はコースのみをご用意しています。そのおかげで、これまでに出会った本当に自分が好きだな、毎日食べたいなと思える食材を使いながら料理をできることに非常にワクワクしています。その反面、天候や他の要因で食材が揃わない、届かないという事態も起こります。そこをどう乗り越えていくか、自分の成長も必要です。

おかげさまでほとんどの食材が白馬近隣や僕の地元の八ヶ岳周辺、長野県内のもので揃っています。白馬は山奥のイメージもありますが、日本海まで車で1時間。北陸を中心とした素晴らしい海産物もコースに取り込ませていただいています。

レストラン内に常設されているワインセラーには1,000種類以上のワインも常備されており、お料理に合わせたお飲み物も豊富にご用意しております。

——中国料理に合わせるお酒といえば、紹興酒が定番ですが、ワインでペアリングする理由は何でしょうか?

僕自身が白馬飯店に入るまで、あまり紹興酒というものを飲んだことがなかったので、「紹興酒が定番」という考えが元々ありませんでした。定番と言われているものやロジックに捕らわれず、素材や料理の特性に合わせて、より食事自体が立体的になることを意識してアプローチをしています。

シンプルにいうと僕が好きなお酒を置いています(笑)。僕が美味しいと思うお酒が揃っていて、そこに僕が美味しいと思って作っている料理がある。ですので、その両者の相性は自然とよくなると考えています。もちろんその中でも、この料理には日本酒がいい、これには冷した紹興酒の方が良いとか組み合わせも。ただ、ワインを召し上がらなくても、ワインリストを見ただけで僕の好みを感じてもらえること自体も面白いと思っています。

——最後ですが、阿部さんが料理を通してお客様に伝えたいことはなんでしょう?

白馬村でしか食べられない料理、白馬村であるから、長野であるから、日本であるから。 

阿部剛士という人が作っているから、白馬飯店があるから体験できること。

美味しかったとか、楽しかったとか、いろんな要素がこのレストランで過ごした時間、体験から感じていただけたら嬉しいです。

ぜひお気軽に、皆さんの大切な人を誘って食事に来ていただけたらと思います。お待ちしています。

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